◆融資編「商工会議所の融資制度がすげぇ！」◆
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「商工会議所の融資制度がすげぇ！」
「プルルルル…。」
あれ、見たことのある番号だな…。なんだか嫌な予感。
「青年部の鎌倉さんからお電話ですー。」
電話のディスプレイに映る番号は、商工会議所の会員で青年部のメンバーでもある、若手の塗装屋さんからだった。
「いつもお世話になってます～。今日はどういったご用件で？（震）」
「お疲れ様っす！いやー、実は会議所さんの青年部に入会してからというもの、取引先がグッと増えていたのですが…。どうも最近は仕事のキャンセルが相次いで、うちの資金繰りも厳しくなってきているんです。」
忘れようにも忘れられない、この方との苦い思い出。実は私こそが、この鎌倉さんに商工会議所青年部への入会を案内した張本人である。その時は「俺が無知なことを理由に変な団体を案内しやがって！」と理不尽に怒鳴られ、私の貴重なネーム入りボールペンを持ち去って行った。
それからというもの、青年部のメンバーが鎌倉さんに仕事を依頼し始めたのをきっかけに、青年部への入会を決めたそうだ。
「あの時はすんませんでした。これ。ボールペン持って帰ってましたわ。これからもよろしくお願いします。」とお詫びにこられたのがつい半年前。ボールペンには「無添くら寿司」と書かれている。ふざけるな。（笑）と思ったあの日が懐かしい。
「ということは、今回は”ご融資”を検討されているということですね？」
「そうなんです。青年部の大川さんが、”商工会議所の融資制度がすげぇ！”って言うもんだから。運転資金で、できれば300万円程お願いできればと。実はまもなく商工会議所に着くところなんで、立ち寄ってもいいっすかね？」
無言の圧力を感じる。断れば、たちまち”くら寿司”…。というか語彙力が心配だ。
「承知いたしました。それでは、お待ちしております。」
1分後。
「ずいぶん早かったですね。絶対着いてましたよね。」
「てへ。融資を一刻も早くお願いしたくって、ついね。」
”てへ”じゃないだろ。
「決算書をお持ちいただいておりますね。拝見いたします。」
マル経融資制度は、本来6か月間の商工会議所からの経営改善指導を受けていなければ、融資の申し込みをすることができない。そして鎌倉さんは、当所に入会してからというものセミナーや相談会、青年部等で活発に活動をされている。それが寄与してか、確かに業績は好調だった。
「取引先拡大に比例して、売上規模も大きくなってきましたね。外注されているかと思いますが、3期終えての売上・所得、現在の負債状況等から判断して、返済余力も十分におありかと。」
「ですよね！入金は来週ぐらいでお願いできますか？」
なんでだよ。（笑）
「お急ぎの融資をご希望でしょうか。実は制度上、マル経融資は無担保・無保証・低利で借入できる分、一定の審査を経なければなりません。事業所での調査訪問や審査会がこれにあたります。ですので、最短のご入金は翌月末頃になるかと。」
そう、よく勘違いされるのがこの融資の実行サイクルだ。民間の金融機関であれば最短で2週間とかからずに入金されるが、商工会議所の融資制度では”日本政策金融公庫の融資担当に変わって、商工会議所職員が融資の調査や審議を行う”。一定の時間がかかるのだ。
極めつけは、このコロナウイルスの影響で融資元の日本政策金融公庫がひっ迫しているという状況。審査を経ても、入金が遅れているという事態が発生している。
「なんとか、翌月末なら耐えられそうです…。（震）融資、お願いします！」
おい、急に弱腰だな。
「承知いたしました。今後の流れですが、一旦決算書のコピーと借入明細等をお預かりして、公庫に取引照会・協議をかけます。数字の確認をして、問題がなければお申込みとなりますので、私からの連絡をお待ち頂けますか？」
「はい。あの…生活がかかってるんです。よろしくです。」
こういう人に限って、収賄行為がよくある。前回融資した方は、「乃が美の生食パン」を持ってきていた。（もちろん断る）まぁ鎌倉さんに限っては、そんな心配はいらないか。
「それでは、今週中にはお電話できるかと思いますので、本日はこれにて。お気をつけてお帰り下さい。」
「ありがとうございました！あ、昼飯一緒にどうっすか！？これからのこともあるんで、出しますよ！」
鼻水がでる。
